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2023年3月10日藤田美術館(けんざい276号掲載)JR大阪城北詰駅を出てすぐ目の前に、現代的でスタイリッシュな美術館が現れます。こちらは桜で有名な毛馬桜宮公園の一角にある藤田美術館。もともとは明治から大正にかけて建てられた藤田家邸宅の蔵を美術館として活用したものでした。建物の老朽化で2017(平成29)年6月12日から建替工事を行っていましたが、2022(令和4年)4月1日にリニューアルオープンして話題になりました。
邸宅の蔵を改装した美術館が60余年を経て再生
藤田美術館は、明治時代の実業家・藤田傳三郎翁(1841-1912)が息子たちと共に蒐集(しゅうしゅう)した美術品を保存・ 公開するため、屋敷の蔵を改装して1954(昭和29)年に開館されたもので、「蔵の美術館」と呼ばれていました。国宝9件、重要文化財53件を含む約2,000件という大規模なコレクションを誇ります。
外観は、大きく張り出す真っ白な庇を持ったガラスの箱のように見えます。「土間」と称した広大なエントランスホールには茶屋と広間が設置され、人々が思い思いにくつろいでいます。
旧建物の老朽化が進んでリニューアルが計画されましたが、背景や目的について館長の藤田清さんは次のように語ってくれました。 「最も大切なのはこの先も長らく美術品を守っていくことです。老朽化で懸念されたのは、近い将来起こるであろう大規模地震や、昨今の異常気象や気候変動へのリスクです。旧建物は元が蔵なので空調設備がなく、そのため春・秋のみの開館だったのですが、気候に左右されないようにすることで、美術品を保護しながらも通年開館できるようにと考えました」。自然エネルギーを活用し、旧建物材も各所に利用
伝統的な蔵とは本来、漆喰の厚い壁に守られ、内部の温度と湿度が調整できる実用的なものです。「蔵の美術館」たる同館も、自然エネルギーを有効活用する仕組みを多数取り入れています。漆喰建材で調湿され、大きなガラスの開口で自然光を入れながらも大庇で直射を遮蔽して空調負荷を低減しています。収蔵庫や展示室などの重要な空間は二重壁によって省エネ性能をアップさせています。
展示室へは旧建物の蔵扉を活用した黒く重厚な扉を抜けて入ります。そこには、陽光の差す明るい土間とは全く違う空間がありました。
「リニューアル後の展示室は、一つの大空間を可動式間仕切りでフレキシブルにレイアウトできるようになっています。4つに空間を分け、うち一つは閉じてメンテナンスや準備用に使い、1カ月ごとに壁をずらして順繰りに公開していくというイメージです」と藤田さん。
「壁を動かす」というアイデアは、入れ替えや準備のための休館日をつくらないようにするにはどうすべきか? という思索の中から生まれました。レイアウトパターンを何度もシミュレーションし、最適なデザインを追求したそうです。よく見ると間仕切り自体にも展示品が収められており、創意工夫に感服させられます。
明治30年代の蔵扉をはじめ、旧建物の部材を随所に再利用しているのも見どころです。旧建物の大きな梁をそのまま置いた土間のベンチ、入り口から蔵扉まで敷かれた石畳、展示ケースの木製土台、ギャラリーの窓枠などが、新しい建築デザインによくなじみながらも存在感を 発揮しています。
2室あった古い茶室は、リニューアルを機に新築し、うち一つの「光雪庵」は日本庭園に、もう一つの「時雨亭」は土間内にオープンな広間として設置しました。利用者目線のアクティビティに期待
館内の動線も非常に巧妙です。入館者は土間から展示室に入り、逆側の明るいギャラリーに出ます。そこから屋外回廊を渡って土間に戻り、茶屋でお茶を飲んで一息つくわけです。ギャラリー~回廊~土間への道は日本庭園に対して開かれているため、自ずと庭を散策でき るようになっているのです。
リニューアル前の美術館は四方が高い塀で覆われていましたが、これを機に全ての塀を取り払ったことにより、隣接する毛馬桜宮公園(藤田邸跡公園)との境界もなくなりました。日本庭園と公園は完全に連続した敷地となっているため、公園を訪れていた人が美術館の存在 に気付いて入ってくるというケースも多いとのことです。
境界をなくしたことで公園と一体化し、地域に開かれた施設となった同館。多くの人に美術品を鑑賞してもらうだけでなく、多目的に活用してもらいたいというのが藤田さんの思いです。特にオープンなスペースである土間を使ったさまざまなアクティビティが期待できそうです。11月 には茶道具の一種である「茶箱」を楽しむイベントを開催しました。このように、藤田美術館ならではのリソースを活用した文化芸術に触れ合う企画には無限の可能性がありそうです。
「この美術館をどんなふうに使っていくかは、私たちよりむしろ使っていただく側の方々が主体的に決めていってくださればと思います。ずっと美術館に携わっている側の人間が考えるとどうしても、どこかで見たようなプログラムになってしまうんです。100人いれば100通りの使い道があるはずで、私たちはそのための機会やスペースを提供したいと思っています」と藤田さんは言います。何が生まれるかは全く未知数ですが、とても楽しみでわくわくしていると語ってくださいました。藤田美術館 【所在地】 大阪市都島区網島町10-32
【TEL】 06-6351-0582(代表)
【URL】 https://fujita-museum.or.jp/